tohaku

 

 

「これは他とは照明がちがうんですか?」と尋ねると、ふふんという感じで木下さんは、「特別に誂えたわけじゃないんですよ。前に使ったケースを転用しただけです。」と言って、さらにこう付け加えた。「これは等伯じゃないって話です。」

 

今週はじめ、仕事の打ち合わせでひと月ぶりに東京に行った。あいまに時間が取れそうだったので、東京国立博物館の木下史青さんに連絡すると、開館前なら空いているから、案内するよとのこと。午前9時、出勤してきた彼と通用門で落ち合い、ちょうど開催中の長谷川等伯展を拝見させていただいた。

 

等伯の没後400年を記念したこの展覧会には、“もう一つの松林図”と言われる「月夜松林図屏風」が出品されている。もう一つと言われるのは、有名な国宝の松林図屏風と瓜二つだからだが、背景が山並みではなく、朧月の夜の情景が描かれている。冒頭の会話は、この月夜の松林図を前にしたときの木下さんとのやり取り。木下さんは展示デザインの専門家だ。

 

言われてみれば、たしかに枝のタッチなど、明らかに“オリジナル”に比べて弱く、手本をなぞったようで生気がない。夜という設定のせいもあり、松林図が持つ一種独特な幽遠な趣きはいっそう際立っているが、そこに固定されているとも言える。国宝の松林図を見ながら、木下さんはこう言った。「こちらは何度も手掛けているから、扱い慣れていると言えなくもないんですが、まだまだですね。毎日微妙に照明を変えています。」

 

開館時間になると、館内には瞬く間に人だかりができた。木下さんと別れ、あらためて四つの展示室をひとわたり廻った後で、最後にもう一度松林図を見た。国宝松林図には、何か近づいてはならない雰囲気でもあるのだろうか、みな一定の距離を置いて、遠目にじっと絵を眺めている。影絵のようなそれらの人々の肩越しに、ひときわ明るく照らし出された屏風をボクもしばらくじっと眺めた。

 

ふと振り返ると、月夜松林図には立ちどまる人もほとんどなく、薄暗い画面がいっそう暗がりに沈みこんだかのようだった。

 

 

 

getsuya shorin zu

 

 

 

この絵、きらいじゃないです。

 

東京国立博物館の長谷川等伯展は今月22日(月)まで。その後京都に巡回します。